人種差別撤廃施策推進法案に対し、外国人人権法連絡会が声明を出しました。


今日、「人種差別撤廃基本法を求める議員連盟」が昨年4月から検討、準備してきた
人種差別撤廃施策推進法案を、有田議員らが参議院にを提出しました。すで
に産経などで報道されています。
http://www.sankei.com/politics/news/150522/plt1505220031-n1.html

人種差別撤廃施策法案
この法案に対し、外国人人権法連絡会が以下のような声明を出しました。
「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律(案)」に対する
声明

2015年5月22日
外国人人権法連絡会
共同代表 田中宏 丹羽雅雄 渡辺英俊

本日2015年5月22日に民主党、社民党及び無所属の議員が参議院に提出した「人種
等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律(案)」(以下「本法
案」)は、人種等を理由とする差別の撤廃が重要な課題であることを明言し、このた
めの施策を推進する初めての法案です。国が、人種等を理由とする差別が許されない
ことを宣言し、それをなくすための施策を進める方針を明確にすることは、この問題
に取り組む貴重な第一歩となり、大きな意義を有すると考えます。

本法案は、特に以下の点で評価することができます。

▼人種差別撤廃条約の理念に基づき、人種等を理由とする差別の撤廃のための施策を
推進することを目的として掲げ(1条)、条約で求められている、国と地方公共団体
が人種差別を撤廃する政策を策定し、実施する義務を法律上の責務として明記した点
に意義があります。日本は1995年に同条約に加入して以降、20年もの間、定められた
義務をほとんど実施して来ませんでした。本来加入時点で作るべきだったものです
が、この法律が成立することにより、人種差別撤廃条約の義務を果たすスタートを確
実に切ることができます。

▼人種等を理由とする差別の禁止の基本原則を明示し(3条)、なかでも、現行法で
は違法ではない不特定の者に対する公然となされる不当な差別的言動を差別として禁
止したこと(3条2項)は画期的です。「朝鮮人を皆殺しにしろ」「Japanese Only」
などの不特定の者に対するヘイト・スピーチは差別として許されないと国が非難して
いることが明確になるからです。このような宣言自体、一定の抑止効果があり、ま
た、差別の被害者に対して国が被害者の側に立つスタンスを明らかにする意味があり
ます。さらに、許されないヘイト・スピーチを実際に抑止し、被害者を救済するため
の取組みを具体化する出発点となります。

▼6条において、人種差別撤廃が国のみならず、地方公共団体の責務であることを明
記したことにより、地方公共団体がそれぞれ人種差別撤廃・禁止条例を制定したり、
公共施設を人種差別行為に使わせないよう利用条例のガイドラインを作ったり、地域
におけるマイノリティの状況に合わせた人種差別撤廃教育に取り組むなどの施策を促
進するでしょう。

▼政府は人種等を理由とする差別の防止に関する基本方針を定め(7条)、講じた施
策についての年次報告を国会に提出しなければならないとしたこと(9条)も意味が
あります。この法律ができれば、政府は人種差別撤廃政策を策定するのみならず、そ
れを具体化し、かつ、その実施状況のチェックを受けることになるので、人種差別撤
廃政策を確実に進める制度的保障となりえます。

▼国は人種等を理由とする差別の実態調査を行わなければならないとしたこと(18
条)は大きな意味があります。人種差別撤廃政策を策定するための大前提となるから
です。国連人種差別撤廃委員会から2001年、2010年、2014年と毎回実態調査を行うよ
う勧告されてきましたが、この法律によりやっとはじめて国が実態調査を行うことを
確実化できます。

▼国及び地方公共団体は、施策の策定及び実施にあたり、差別の被害者等の関係者の
意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとしたこと(19条)は重要です。例
えば、前述の差別の実態調査を行う際にも、どのような調査を行うことが必要なの
か、調査の制度設計の段階から差別の被害者の意見を聴くことが必要ですし、差別の
被害者の協力なしに正確な調査結果を得ることはできないからです。

▼内閣府に人種等差別防止政策審議会を設置し、本法の担当省庁を内閣府としたこと
(20条)も重要です。人種差別は、法案第4条の指摘するように、「職場、学校、地
域その他の社会のあらゆる分野」における問題ですから、全省庁があげて取り組むべ
き課題です。したがって、「広範な分野に関係する施策に関する政府全体の見地から
の関係行政機関の連携の確保を図るとともに、内閣総理大臣が政府全体の見地から管
理することがふさわしい行政事務の円滑な遂行を図ることを任務とする」内閣府(内
閣府設置法第3条)が担当すべきだからです。

▼第三章による人種等差別防止政策審議会の設置は、この法案の肝ともいうべきとこ
ろでしょう。行政から一定程度独立した「人種等を理由とする差別の防止に関し学識
経験を有する者」による専門機関を新設し、そこが基本方針作成などの重要事項を調
査審議し、内閣総理大臣などに意見を述べることができることにより、より公正で的
確な政策を担保しようとする点を評価できます。

このように法案は基本的に評価できる一方で、次の改善すべき点があります。

▼被差別者の尊厳を守る目的の明確化(1条ほか)
本法案は、人種等を理由とする差別の撤廃とは、人種等を異にする者が「相互に人
格と個性を尊重し合いながら」共生する社会を実現することを意味するとしています
(1条)が、日本社会に現在蔓延するヘイト・スピーチをはじめとする人種差別が在
日コリアンなどのマイノリティの人権を侵害している現状から出発すれば、「相互
に」尊重するというより、被差別者の尊厳を守ることが重要であることを明確化すべ
きです。

▼差別の定義の明確化(2条、3条)
差別の定義は、何が差別となるかの範囲を画するために重要ですが、本法案の定義
は、「不当な差別的取扱い」「不当な差別的言動」として、何が「不当」であるの
か、「差別」そのものの定義を示しておらず、判断基準として不十分です。すでに国
内法となっている人種差別撤廃条約第1条第1項の「人種差別」の定義である「あらゆ
る公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は
行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するもの」を条文に明記すべきで
す。

▼「著しく不安若しくは迷惑を覚えさせる目的」は不明確(3条2項)
不特定の者についての不当な差別的言動の定義において、「著しく不安若しくは迷
惑を覚えさせる目的」を要件の一つとしていますが、きわめて曖昧で、広い解釈が可
能であり、表現の自由に対する過度な規制に結び付く危険があります。例えば「侮蔑
若しくは威嚇する目的」に修正すべきです。

▼審議会の委員の任命は両議院の同意を要件とすべき(21条2項)
審議会の委員は内閣総理大臣が任命することとされていますが(21条2項)、両議
院の同意を要件とすべきです。人種差別の問題は全社会的な重要な政策課題であり、
また、制度的・公的な差別の見直しも重要な課題であることに鑑みると、政府からの
一定の独立性・中立性を確保する必要があるからです。

▼審議会に差別の被害者を入れるなど意見を反映させるべき(21条2項)
差別の実情を踏まえた調査審議を行うためには、審議会の委員の構成の多元性を確
保することが重要です。したがって、例えば委員の構成について、障がい者基本法第
33条2項のように、差別の被害者を委員にしたり、多様な被差別者の意見を聴き、差
別の実情を踏まえた調査審議を行うことができることとなるよう配慮することを条文
に入れるべきです。

以上の問題点の修正を含め、本法案について国会で真摯な検討がなされ、1日も早
く、人種差別撤廃のための法律が制定されることを強く求めます。

以上です。なお、外国人人権法連絡会は、2004年に第47回の宮崎における日弁連の人権擁護大会シンポジウムで、外国人の人権をテーマにして行った第一分科会に所属した弁護士の
有志とシンポに協力したNGOなどが、分科会で作成した「外国人・民族的少数者の
人権基本法要綱試案」などを実現するために2005年に結成した人権NGOです。毎年
「外国人人権白書」を発行しています。

https://gjinkenh.wordpress.com/2015/04/09/01-2/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*